長年にわたって、ドルの優位性は世界中の市場における前提でしたが、最近ではその流れが変わりつつあるようです。米連邦準備制度の利上げやリスク回避の流れによって支えられてきたドルの強さが、徐々に落ち着いてきています。そこで浮かぶ大きな疑問は、「ドルは今でも過大評価されているのか?それとも新たな基準に落ち着いてきたのか?」という点です。
ドルが世界の基軸通貨であることに疑いの余地はありません。しかし、インフレが鈍化し、各国の中央銀行の政策が近づいてくると、ドルに対する「プレミアム」が妥当なのか再評価する必要があります。そして、まさに今、アナリストたちはその再評価を進め、ドルは本当に高すぎるのかという問いに向き合っています。
通貨の価値はどう評価するのか?
株式のように通貨には収益報告書や財務諸表があるわけではありません。では、ドルが強すぎるかどうかはどう判断するのでしょうか?それは現実世界の比較にかかっています。
ドルが過大評価されているかを判断する1つの方法が、実質実効為替レート(REER)です。これは、インフレ率や貿易関係を考慮して、ドルが他の主要通貨と比べてどれだけの価値があるかを測定する経済指標です。つまり、「現実の世界で、ドルはどれくらい高くなっているのか?」という問いに答えるための指標です。
現在、REERは111.4と依然として高い水準にあります。3月には112.9だったため若干下がっていますが、ドルの強さはまだ続いています。高いREERは一見良いことに思えるかもしれませんが、それが問題を引き起こすこともあります。ドルが高すぎると、アメリカ製品の海外での競争力が下がるため、ドルはやがて調整される可能性があると投資家たちは考えるようになります。
米国 実質実効為替レート(REER)

出典:BIS(国際決済銀行)、FRED®(米セントルイス連邦準備銀行)。指数の基準値 = 100(2020年)。REERはインフレと主要取引国に対する加重平均に基づいてドルの実質価値を示す。100を上回ると2020年比でドルが強いことを示す。
通貨の価値を測定するもう1つの方法は購買力平価(PPP)です。例えば、ニューヨークでの食事がベルリンよりも遥かに高い場合、それはドルがやや強すぎることを示しているかもしれません。これは各国で実際にどれだけの物を買えるかを比較する手段です。もちろん、賃金、税制、消費習慣などが影響しますが、おおよその基準を提供してくれます。現在のドルは多くの主要通貨、特に円やポンドに対してはかなり割高に見えます。この価格差が長期間続くと、経済の基本とズレていると見なされがちです。
これらの指標を総合すれば、通貨が妥当な位置から離れているかどうかを感じ取ることができます。
ドルはすでに調整されたのか?
2025年の現時点では、「少しは調整された」と言えるでしょう。ドルインデックス(DXY)は年初来で約10~11%下落しています。これは、近年の強さを考えれば妥当な動きです。
現在、DXYは99で取引されており、長期平均の100をやや下回っています。つまり、過度に割高な状態からは離れたものの、まだ過小評価されているとは言えません。要するに、「やや柔らかくなったが、崩れたわけではない」という状態です。
米ドル指数(DXY)と移動平均(1月〜5月)

出典:TradingView。すべての指数は米ドル建てのトータルリターン。2025年5月26日時点のデータ。
今後の動向は、インフレ、金利、リスク回避資産に対する需要次第です。
なぜ重要なのか?
外国市場に投資しているなら、ドル安は朗報です。海外での収益をドルに換算する際にリターンが増加するためです。輸出業者にとっても、製品価格が相対的に安くなり、収益拡大の可能性があります。
新興国の投資家もドル安で一息つけます。ドル建て債務の返済負担が軽減され、資本流入の可能性が高まるからです。ただし、地政学的ニュースやFRBの予想外の発表などによって、ドルが再び急騰する可能性もあります。今後もボラティリティには注意が必要です。
専門家の見解
多くの機関はドルの今後に対してより慎重な見方を示しています。JPモルガンは、金利差の縮小が続けば、2025年にはドル軟化がトレンドになる可能性を示唆しています。ゴールドマン・サックスも、財政リスクが高止まりすれば、ドルの価値は下落圧力を受けると警告しています。一方、BISのデータは、ドルのREERが依然として長期平均を上回っているものの、最近の動きは急な逆転ではなく、穏やかな調整を示唆しています。
結論:次に来るもの
総括すると、ドルはやや過大評価されているものの、その程度は大きくありません。ドルの世界的な役割と米国の経済的な強さが依然として価値を支えており、指標の一部は徐々に調整される傾向を示しています。
投資家にとっては、グローバル株式、輸出志向のセクター、新興市場などドル安に恩恵を受ける投資機会が開かれています。為替トレーダーにとっても、金利差とボラティリティを活かせるタイミングが訪れています。
ただし、短期的には政策変更、経済指標のサプライズ、地政学的イベントなどによって、ドルは依然として大きく動く可能性があります。長期的には、よりバランスの取れたドルの姿が見えてくるかもしれません。